個展「ポエティック・プロトタイピング 2022」

2022年12月、スタジオ・ポエティック・キュリオシティによる第二回目となる個展を、大田区西蒲田のアトリエビルHUNCHにて開催しました。2021年に行われた初の個展同様、「ポエティック・プロトタイピング」をテーマに、2022年度のスタジオとしての取り組みを出展しました。

「ウィンド・ウィスパラー：言葉を風に乗せる」、「ファブリック・レコード：触り心地を再生する」、「影をそそぐ」の三作品は、一年前の個展にて初めて発表された作品をきっかけとし、一年かけて発展して至った作品です。また、昨年同様に今回の個展で初披露となる、４つの新たなプロトタイプを発表しました。

初日には青沼と三好によるガイドツアーを行い約50名の方々にご参加いただきました。

私たちが心のなかに抱えている様々な想いや感情を、泡に変えて風に乗せる作品。今回は、ビルの屋上での実演が実現しました。言葉の泡が、ビル風に乗って街の遠くまで流れていく様子を見届けることができました。

布の触り心地から、音を再生する作品。70種類以上もの「ファブリック・レコード」（布のレコード）は、端材の布と、ジャンク品レコード盤を貼り合わせてできています。それぞれの盤は、ワークショップで制作され、布の音から思い描く情景のタイトルが付けられています。布を、手触りと景色のメディアとして保存する試みです。

新たな素材（カラーMDF）と、新たな加工技術（Shopbotマシン）。その両面の特性を生かした表現技法を模索した作品です。普段は木の穴開けや切り取りに用いられるShopbotですが、__ミリ単位で深さをコントロールできるという強みがあります。それの強みを生かし、穴の深さを徐々に変えることで、穴に落ちる影によって色の濃淡を描くという技法を提案しました。

今回の個展で初登場となる4作品のうち、1つ目です。

太陽に手をかざすと、指の間から光があふれ出ることで、指の輪郭がぼやけて見えます。このように、光源に向かって何かの形を向けたときに、その形の輪郭がどれだけ消えてしまうかを測ることで、光源の照度を知ることができるのではないかと考えました。照度計のような抽象的な基準による光の測り方ではなく、自分の知覚を使った測り方です。自分にとって「心地のいい光」を見つけ、持ち帰られるようにするための物差しです。

2021年から長野県小布施町とのコラボレーションによって、栗皮を使った素材研究を行っています。栗の実と違って決まった用途がない皮の部分の新しい活用方法を探索しているものです。最終的に土に還り、資源として循環することを大前提としたときに、どのようなものづくりが可能になるのでしょうか。その実験で生まれた造形物を展示しました。

目を閉じたときに見える光や色の模様を描いた作品です。私たちの世界は光で溢れていて、それらは断り無しに私たちの目に飛び込んできます。そうした光から一旦逃れるため、まぶたを閉じると、自分にしか見えない景色を見つけました。その安心感は、まるで幕間に下ろされた深い色の幕のよう。その人にしか見ることのできない光景の存在に、尊さを感じました。

他者に聞こえる自分の声と、自分に聞こえる自分の声は、違って聞こえます。「自分の聞こえている自分の声」は、その人にしか聞こえず、他の人に聞くことができない。まるでアイデンティティの秘境がそこにあるようです。この作品は「自分に聞こえる自分の声」を、もしくはそれに近い声を、どうにか捕まえられないか試してみたものです。こめかみにマイクを当てたり、のどにマイクを当てたり… そうした録れた音が、「自分に聞こえる自分の声」とどう似ていてどう違うのかを記録しながら、探しました。

来場者の方々に「時間の領収書」を発行しました。それぞれの人に与えられた有限の時間のなかから、個展にお越しいただき、滞在していただいく時間をお使いいただいたことへの感謝の気持ちを込めました。

昨年度の個展の解説を編集した書籍も会期に合わせて販売しました。昨年からのアイデアや思考の変化について、お読みいただくことができます。近日、オンラインにて販売開始予定です。

展示情報

会場
HUNCH　〒144-0051 東京都大田区西蒲田7-61-13

会期
12月3日(土)~12月11日(日)　各日13時~18時まで。
（3日は17時より開場。最終日は16時まで。6日は休廊日）